26/08/2026
🟦 いま、制度が語ること。
Vol.30|在留手数料は、なぜここまで上がるのか。
― 10月からの大幅引上げと、減額制度が示しているもの ―
外国人の在留手続にかかる手数料が、10月1日から大きく変わります。
政府は8月25日、在留資格の変更、在留期間の更新、永住許可などにかかる手数料を引き上げる政令を閣議決定しました。
現在、在留資格変更・在留期間更新の手数料は、
・窓口申請 6,000円
・オンライン申請 5,500円
ですが、改定後は、許可される在留期間によって金額が変わります。
たとえば、
・1年 窓口3万3,000円/オンライン2万7,000円
・3年以上5年未満 窓口6万4,000円/オンライン5万6,000円
・5年以上 窓口7万5,000円/オンライン6万5,000円
となります。
永住許可は、
▶ 1万円から20万円へ。
かなり大きな引上げです。
🖇️ 出入国在留管理庁
「在留許可手数料の額及び減額又は免除の対象者等について」
一見すると、「在留手続の手数料が値上がりする」という話に見えます。
しかし、今回の改正を制度の構造から見ると、もう少し大きな変化があります。
🔄 手数料は、「手続の実費」だけではなくなる
今回の手数料は、単純に審査にかかった人件費や事務費だけから計算されているわけではありません。
入管庁が示している考え方では、
▶ 審査に要する実費
▶ 外国人の出入国・在留管理に要する費用
▶ 外国人が日本社会で安定して在留するための支援に要する費用
▶ 諸外国の同種の手数料
などが考慮されています。
ここで使われているのが、「応益的要素」という考え方です。
つまり、
▶ 行政手続にいくらかかったか
だけではなく、
▶ 在留することによって受ける利益も含めて、一定の負担を求める
という考え方です。
制度の方向性は、かなり明確です。
これまでの「手続の対価」という性格から、
「制度を利用し、その利益を受ける人にも制度維持の費用を負担してもらう」
という方向へ動いています。
🏠 20万円という数字が持つ意味
特に象徴的なのが、永住許可です。
現在1万円の手数料が、20万円になります。
なぜ20万円なのか。
入管庁の資料では、
永住許可の審査に要する実費を約2万円。
さらに、永住許可後の平均在留期間が約13.5年であることを踏まえ、応益的要素を約18万円。
合わせて20万円とする考え方が示されています。
つまり、この20万円は、
単に「永住審査にこれだけ費用がかかる」
という数字ではありません。
永住許可によって、その後長期間、日本で安定して在留できること。
その「利益」まで手数料の中で評価しています。
ここは、今回の制度改正を見るうえで重要なところです。
制度が、
▶ 在留許可を行政手続として見るだけではなく、
▶ 継続的な利益を伴う制度として捉え始めている。
その考え方が、手数料という数字に表れています。
🌏 日本は、いまも「選ばれる国」なのか
ただ、ここでもう一つ考えておきたいことがあります。
その「日本に在留できる利益」は、国際的に見ても、これから同じように高く評価され続けるのか。
ということです。
日本に暮らす外国人そのものが減っているわけではありません。
2025年末の在留外国人数は約412万人。
外国人労働者も約257万人に達し、いずれも過去最多です。
外国人の受入れは、現在も増えています。
一方で、「外国人から選ばれる国として、日本の魅力は十分なのか」となると、別の問題が見えてきます。
OECDは、日本について、高度外国人材を引き付ける国としての魅力度が国際的に相対的に低いと指摘しています。
背景には、
▶ 他国と比べた賃金水準
▶ キャリア形成の難しさ
▶ 高い日本語能力を求める労働市場
▶ 家族の生活環境
▶ 住宅や金融サービスへのアクセス
▶ 将来の見通し
などがあります。
もちろん、日本の文化や治安、生活環境に魅力を感じて来日する人も多くいます。
しかし、働く場所や暮らす国を選べる外国人にとって、日本だけが選択肢という時代ではありません。
人材を必要としているのは、日本だけではないからです。
各国が外国人材を必要とし、「どう受け入れるか」だけではなく、「どうすれば来てもらえるのか」「どうすれば残ってもらえるのか」を競う時代になっています。
そう考えると、
日本に長く在留することによる「利益」を手数料の中で高く評価する一方で、その利益自体が、外国人から見て国際的にどれだけ魅力的なのか。
ここには、少し難しい問いがあります。
⚠️ 「払えない人」はどうなるのか
一方で、手数料が大きく上がれば、当然もう一つの問題が出てきます。
経済的に負担できない人を、制度はどう扱うのか。
今回の改正では、一定の場合に手数料を減額できる仕組みも設けられます。
基本となるのは、
▶ 生活保護法上の要保護者に準ずる程度に生活に困窮していること
に加えて、
▶ 難民や補完的保護対象者
▶ 一定の難民認定申請者
▶ 人身取引の被害者
▶ 日本人の配偶者など一定の身分関係にある人
▶ ひとり親など、人道上の配慮が必要な一定の類型
に該当する場合などが想定されています。
つまり、「収入が少ない」「生活が苦しい」というだけで、広く減額される仕組みではありません。
生活困窮の程度と、人道上の事情。
その両方を制度上確認できることが基本になります。
🧩 制度は、「困っている人」をどう見つけるのか
ここに、もう一つの論点があります。
現実の生活では、生活保護を受けていなくても、生活がぎりぎりの人はいます。
難民認定を申請していても、すべての人が保護費を受給しているわけではありません。
家賃を払い、食費を払い、家族を養いながら、数万円の在留手数料を負担することが難しい人もいるでしょう。
しかし、制度が判断するためには、「困っている」という状態を、そのまま扱うことはできません。
✓ 誰を生活困窮者とするのか。
✓ 何をもって確認するのか。
✓ どの事情まで人道上の配慮として扱うのか。
どこかに基準を置く必要があります。
基準を置けば、制度は公平に運用しやすくなります。
一方で、その基準のすぐ外側に、
▶ 実際には負担が重いけれど、制度上の減額対象にはならない人
が生まれる可能性もあります。
これは、在留制度に限った話ではありません。
✓ 補助金
✓ 社会保障
✓ 生活支援
✓ 各種の減免制度
制度は、多くの場合「困っている人」そのものを見るのではなく、「制度が定めた要件によって、困っていることを確認できる人」を対象に動きます。
そこに、制度と生活のあいだの難しさがあります。
🌍 行政書士実務との接点
今回の改正は、在留資格を扱う行政書士実務にも直接影響します。
これまでは、更新や変更の手数料は、申請全体の中では比較的小さな費用でした。
しかし今後は、
✓ どの在留期間が許可されるのか
✓ 窓口申請かオンライン申請か
✓ 本人だけでなく家族も更新するのか
✓ 減額制度の対象になり得るのか
によって、家計への影響も変わります。
たとえば、家族全員が在留期間を更新する場合。
一人あたり数万円の違いでも、家族単位では大きな負担になることがあります。
申請書を整えるだけではなく、
✓ 制度変更によって生活に何が起きるのか。
✓ どの選択肢があるのか。
✓ どの制度が利用できるのか。
そこまで見ながら支援する必要性は、これまで以上に高くなっていくように感じます。
🧭 問題は、「値上げ」だけではなく、その順番かもしれない
手数料を引き上げること自体が、直ちに問題というわけではありません。
行政サービスには費用がかかります。
在留管理にも、外国人支援にも、多くの公費が使われています。
その一部を、制度を利用する人が負担する。
そこには、一つの考え方があります。
一方で、日本は人口減少と人手不足が進み、外国人材を受け入れるだけではなく、
日本で長く働き、暮らし、地域や社会を支える人として定着してもらうことも必要になっています。
そう考えると、
▶ 日本で働きたいと思える環境をつくる
▶ 家族と安心して暮らせる環境をつくる
▶ キャリアや将来を描ける環境をつくる
▶ 日本を長期的な生活の場所として選んでもらう
そうした「選ばれる国」としての条件を整えることと、在留による利益に応じた負担を求めること。
どちらを先に、どこまで進めるのか。
という政策の順番も考える必要があります。
特に永住は、これから日本に来る人のための制度ではありません。
高度専門職の人たちなど一部の例外はありますが、すでに日本で一定期間生活し、働き、税や社会保険を負担し、地域や職場との関係を築いてきた人が、さらに日本を長期的な生活基盤として選ぶ段階です。
その入口に20万円という負担を置くことが、
外国人材の定着という国の利益と、
どのように両立するのか。
ここは、今回の改正を考えるうえで、もう一つ重要な視点だと思います。
🧭 制度と生活のあいだで
在留資格は、単なる行政サービスではありません。
✓ 日本で働くこと
✓ 家族と暮らすこと
✓ 学校に通うこと
✓ 事業を続けること
✓ 地域で生活を続けること
その基盤でもあります。
だからこそ、「いくら負担してもらうのか」と同時に、「その国を選んでもらうために、どんな環境をつくるのか」
そして、「負担できない人を、制度がどう扱うのか」も考える必要があります。
▶ 負担を求める制度
▶ 人を呼び、定着してもらう制度
▶ 生活を守る制度。
その三つを、どこでつなぐのか。
今回の改正は、そこを問いかけているように感じます。
📖 制度が語っていること
今回の在留手数料の改正が語っているのは、単に、「在留手続が高くなります」ということではありません。
在留という制度を、
▶ 行政手続の実費だけではなく、
▶ そこから得られる利益や、制度を維持するための費用も含めて考える。
制度は、そういう方向へ動いています。
一方で、日本は外国人にとって、「来ることができる国」であるだけでは足りません。
働く国として。
家族と暮らす国として。
そして、長く人生を築く国として。
これからも「選ばれる国」である必要があります。
在留することによる利益を高く評価し、負担を求めるのであれば、その利益そのものを、外国人から見ても魅力のあるものにしていく必要があります。
そして、負担を大きくするのであれば、その負担に耐えられない人を、どう見つけ、どう支えるのか。
という問いも、同時に生まれます。
制度は今、
▶ 「受益に応じた負担」
▶ 「外国人から選ばれる環境」
▶ 「生活への配慮」
その三つを、どこで両立させるのか。
その問いを、私たちに投げかけているのだと思います。
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📍 TP-Law
― 人と事業の過渡期に、制度と伴走を。 ―