03/09/2026
赤根智子『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』(文春新書、2025年)を読みました。
ご案内のとおり、本書の著者は国際刑事裁判所 (ICC) の現在の所長です。米国がICCの赤根所長に制裁を課すと発表し、日本政府の対応が話題になっています。
ICCについて本書は、①どのような組織で、何をしているのか、②直面している問題、③今後の課題・可能性、という3点を中心に基本から分かりやすく説明しています。
ICCは、コア・クライム (中核犯罪)、すなわちジェノサイド犯罪 (集団殺害犯罪)、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪の4つを対象とし、これらを行った「個人」を訴追・処罰することを目的とする常設の裁判所です。
設立は2002年。現在125か国・地域が締約国で、日本は2007年に加入しています。ただ、米国、中国、ロシア、イスラエル、インドは締約国ではありません。そのため、ここにICCの管轄権の限界があります。
また、組織としての脆弱性ゆえに、捜査・訴追および刑の執行にも限界があり、国内の刑事手続とは大きく異なっています。締約国の協力が不可欠な所以です。
締約国は、ICCから逮捕状を出されている人物が国内に立ち入った場合、逮捕状を執行するか、執行のための措置をとる義務が「国際刑事裁判所に関するローマ規程」で課されています。
ICCは2023年3月、ロシアのプーチン大統領に対し戦争犯罪 (ウクライナの子どもたちの不法移送) の容疑で逮捕状を発付しました。そのため、プーチン大統領が先月13日に択捉島を訪問した際には、同島が日本の領土であることを前提とすれば、日本はプーチン氏を拘束して身柄をICCに引き渡す義務があったはずです。
赤根所長に対しロシア当局は指名手配しており、米国は制裁を課しています。ICC本部がオランダ・ハーグにあり、現在はオランダ政府が赤根所長の身の安全を確保しているようです。赤根氏のICC判事・所長の任期は来年3月10日までですが、それ以後もロシアおよび米国からの身の危険は続きます。
本書第四章で赤根所長は、日本には中核犯罪全般に対する処罰規定を持つ法律がないことを危惧されています。また、ICC事務所を東京に設置して、ICCの存在・意義を広報する拠点とすることを考えておられます。
ICCを今後も存続させ、「力による支配」ではなく「法の支配」を守るのであれば、日本における法整備、世論の喚起が不可欠です。本書発刊の思いを赤根所長は次のように書かれています。
「この本をきっかけに、日本国内でICCを、そしてICCが象徴する普遍的な価値を守ろうとする機運がより高まることを、心から願っています」